わたしたちは飽くことなく、鳥たちの歌(Song=さえずり)を聴く。
本稿は、この「ソトブログ」で毎週月曜日に更新している音楽企画、「Birders' Songs(野鳥と音楽を愛する人のためのプレイリスト)」というシリーズの第27回目です。
直近までの8回分は、「Music for Slow Joggers/Birders' Songs」として、ジョギング/ランニングのBGMとしても機能させるべく、<走ること>をテーマにした楽曲も織り交ぜて選曲していましたが、このところ筆者自身が足首を痛めてしまってぜんぜん走れていなかったこともあり、今回から初心に返って――、
<野鳥愛を音楽に置き換える試み/インドア探鳥として室内にいながら鳥見気分を味わえるプレイリスト>
として、引き続きAmazon Music Prime(Amazonプライム会員であれば200万曲が聴き放題のサーヴィス)で選曲したプレイリストをシェアしていきたいと思います。
求愛ディスプレイには、冠羽や尾羽以外にもいろいろな部分が用いられます。グンカンドリ類のオスは、のどの赤い袋を大きく風船のように膨らませます。キジのオスの顔の赤い肉垂も、求愛のときにはさらに鮮やかに大きくなって、首のきらきら光る濃い緑色の羽毛との対比は美しいものです。
きれいな尾羽や冠羽がないかわりに、お互いにダンスを踊って、つがいの絆を形成する鳥たちがいます。主に一夫一妻の、長年にわたってつがい関係を続ける鳥たちです。タンチョウなどのツルの仲間は、オスとメスが、首を上げて、お互いに声を出して、優雅にダンスを踊ります。
『日本野鳥の会のとっておきの野鳥の授業』(山と渓谷社、2021年)所収、上田恵介「鳥たちの求愛行動」より
――といって30回近くこの企画を継続し、そして野鳥観察というアウトドア・アクティビティを数年間続けてきて気づいたことは、(奥野卓司・山科鳥類研究所所長が著書『鳥と人間の文化史』で書かれているとおりに)アーティストを含めてほとんどの人々は「鳥そのもの」が好きなのではなくて、「花鳥風月」としての鳥を愛しているということ、芸術家の表現としても、メタファーとしての鳥、あるいは自然一般への憧れや恐れの顕現としての鳥。が主たる表現方法だということです。
今回のプレイリストのM01、ザ・バード&ザ・ビー(The Bird and the Bee)というこれも象徴的なネーミングのユニットの、「Will You Dance?」はピースフルなダンス・ミュージックですが、上記の引用の野鳥の求愛行動のダンスとは、関係ありません。ぜんぜん。
しかし今回はこの曲を基調として、心地よく踊れるダンス・ナンバーを多く、並べました。それらはコンピュータライズされたトラックもあれば、古典的な人力のロックンロールも。そしてわたしの個人的な好みからか、自然とそうなったともいえるのですが、ラヴソングが含まれます。
というか、わたし自身は、あらゆる音楽はエロティークなものであって、小鳥たちの歌(Song=さえずり)が、「主に繁殖期に発する、なわばり維持や配偶に関わる多少とも音楽的な鳴き声」(前掲書・上田恵介「鳥たちの求愛行動」より)であるのとそれは相似形ないし、同じものだと考えています。
とはいえ、あくまでも簡便にして質素、なかば野外生活を楽しむかのようなその家の開放的な造りは、こと建築ではゴシック好みのモリスからの影響とは言えそうにない。(中略)
モリスの建築観は、それを総合芸術の一つの極致として、建築と装飾とを不可分で一対のものとしてとらえる。「真の建築芸術(アーキテクチャ)*1」とは、「必要な家具類を適当にそなえ」、その用途、性質、威厳に応じて適切な装飾をほどこした建造物のことであり、それは「調和ある共同的な芸術作品であって、単なる玩具や一時的なはかない美の製作などにはみられない」ものであるとする。(モリス「ゴシック建築論」、一八八五年の講演)
それに対して、伊作は、住宅設計では、むしろ「装飾の遠慮」こそが、そこでの美的条件として必要なのだと感じる。やや先走って言えば、のちに伊作がかなり本格的に住宅建築に取り組みだしてからも、「誠実と簡素な生活」をむねとする総合芸術家としてのモリスへの敬意は抱きつづけながら、両者のあいだの違いは残る。
ともあれ、こんな建物を思いつくことからもわかるように、伊作が描く理想の暮らしは、いつもシンプルで、小さい。
黒川創『きれいな風貌 西村伊作伝』(新潮社、2011年)
最後に偶々いま読んでいる本からの引用を置きましたが、ざっくりいって性選択のためとしてさしつかえない鳥たちのそれと違って、人間にとって、何をもって美とするか、何のために美を求めるか、そしてそれがどのような形で表出されるのかは、表現者(芸術家、という限定的な意味でも、非アーティストのわたしたち皆であっても)によってさまざまです。だからこそわたしたちは飽くことなく音楽を愉しむことができ、鳥たちのさえずりにも<歌>を聴くのでしょう。
プレイリスト「2022.05_Will You Dance?」
※以下、選曲は全て、「演者/曲名」で表記しています。
※プレイリストのリンクをクリックすると、Amazonプライム会員の方は、Amazon Musicで聴くことができます。
「2022.05_Will You Dance?」(選曲:ソト)
M01. The Bird and the Bee/Will You Dance?
M02. Kimbra/Carolina
M03. Janelle Monáe/Tightrope (feat. Big Boi) [Big Boi Vocal Edit]
M04. YACHT/Shangri-La
M05. Peter Bjorn and John/Breaker Breaker
M06. Trails And Ways/Defined
M07. Summer Fiction/Chandeliers
M08. Belle and Sebastian/We Were Beautiful (Single Version)
M09. bonobos/Swansong
M10. Griff/One Foot in Front of the Other
M11. Annie Stela/Lovesong
M12. Faded Paper Figures/Lost Stars
M13. Bleachers/Secret Life
The Bird and the Bee - Will You Dance? - YouTube
連載「Birders' Songs(野鳥と音楽を愛する人のためのプレイリスト)」は、今後も毎週月曜更新予定です。次回もお楽しみに!
【Amazon Music オフィシャルサイト】
Amazon Music Prime
Amazon.co.jp: Amazon Music Unlimited
プレイリストM01、「Will You Dance?」を収録のザ・バード&ザ・ビー(The Bird and The Bee)2015年のアルバム、『Recreational Love』。
【以前の記事から:「読む音楽」のような、友部正人の詩。】
ブックレビュー“読む探鳥”:友部正人『バス停に立ち宇宙船を待つ』――「ここには虫や鳥や果物や草と/人間とを遮るものがない」 - ソトブログ
【当ブログの「Birders' Songs」「Music for Slow Joggers」および、音楽、野鳥観察についての記事一覧はこちら。】
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*1:※引用者註/原文では「アーキテクチャ」はルビ。