ごく薄いフィルム付箋を本を読みながら、気になった(気に入った、とも少し違う)センテンスや段落に目印に貼っていく。という習慣を持ったのはいつ頃からだったかもう思い出せない。ページの角を折る<ドッグイヤー>や、鉛筆での書き込みをそれ以前はしていた。
本を傷つけない、汚さない。また小さく細い、しかも色の薄いパステルカラーの付箋を使うことで、本文を読む(読み返す)ジャマにもならないし、いい感じだぜ――。そう思っていた。過去形で考えてみてはいるが今もそう思っているし、そうしている。
けれど二〇二二年九月現在のいま、わたしはこの極細フィルム付箋はマイクロプラスチックそのものではないか、とも思っている。マイクロプラスチックは一般に「直径五ミリメートル以下」と定義されてはいるし、付箋は本に貼りっぱなしなのでどこかへ流出してしまうわけではないが、そういうプロダクトを購入していること自体を、わたしは全くの後ろめたさなしに行うことはもうできない。製造過程のことまでわたしはトレース、フォローしていないし、わたしがいつか死んだり、わたしの家が災害で流されたら?
カズヒコを乗せて水田の広がる農道をクルマでゆっくり流す、<ドライブスルー探鳥>とわたしたち二人で呼んでいる鳥見をしながら、わたしはそれをずっと考えていた。カズヒコはいつものように、
「あ、ちょっとここバック。もちょっとゆっくり走って。いまのジシギかも。」「後ろから軽トラ来たで。ジャマにならんように普通に走って。」
とか、後部座席から船頭気分でわたしに。
今日は休耕田にトウネンがいた。小さくて地味なシギだが、わたしはトウネンが好きだ。
トウネンの、耳はどこにあるのだろう。
夫がそうつぶやいていたのを、彼女は今朝、ふいに思い出したのだった。いっしょに干潟に行ったときのことだ。夫はこの鳥を見つけ、双眼鏡を覗き始めてしばらくすると、そう独り言のようにつぶやいた。さあ、と彼女はそのとき気にも留めなかった。
なぜ「鳥の耳」ではなく、「トウネンの耳」だったのか。夫が亡くなって十二年もたつというのに、今朝、突然そのことを思い出し、調べたくなったのだ。調べてもわからなかった。トウネンは、さして目を引くところのない、ふつうの鳥だった。
梨木果歩「トウネン」(新潮社刊『丹生都比売 梨木果歩作品集』所収)より。
プレイリスト「2022.09_Blackbird and Tombi,Fly」
※以下、選曲は全て、「演者/曲名」で表記しています。
※下記プレイリスト名のリンクより、Apple Musicで聴くことができます(Apple Musicのメンバーシップが必要です)。
「2022.09_Blackbird and Tombi,Fly」(選曲:ソト)
M01. Dionne Farris/Blackbird
M02. macaroom/Tombi
M03. Elise Trouw/How to Get What YouWant (Live Loop)
M04. Fishmans/SEASON
M05. 環ROY & 角銅真実/憧れ(角銅真実Remix)
M06. hope mona/glowing birds
M07. De La Soul/Action!
M08. B.o.B/Magic Number
M09. Electric Light Orchestra/Strange Magic
M10. She & Him/Wouldn't It Be Nice
M11. Arrested Development/Be Refreshd(feat. Speech, Configa, 1 Love & Twan Mack)
M12. A Taste of Honey/I Love You
macaroom - tombi (Official Music Video) - YouTube
エレクトロニカ・ユニット、macaroomの「Tombi」収録の3rdアルバム(2018年作品)。
シリーズ「日々のレッスン」について
「日々のレッスン」は、フィクションと日記のあわいにあるテキストとして、不定期連載していくシリーズです(できれば日記のように、デイリーに近いかたちで続けていけたら、と考えています)。また、それにApple Musicから選曲した<野鳥音楽>プレイリストを添えた「日々のレッスン ft. Bird Songs in Apple Music」を、月1、2回のペースで更新していく予定です。ご期待ください。
【日々のレッスン・バックナンバー】