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映画と本、自然観察(あるいは40代、2児の父の日常)

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絵本『鳥たちは空を飛ぶ』――はじめて空を飛んだ鳥たちが世界を変える。

 

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4年半の単身赴任を終えて、自宅に戻ることになった3月末の休日。ひとり暮らしをしていたアパートの近くにある小さな書店でみかけたのがこの絵本。

 

鳥たちは空を飛ぶ

鳥たちは空を飛ぶ

  • 作者:目黒 実
  • 発売日: 2015/08/01
  • メディア: 単行本
 

 

文・目黒実、絵・荒井良二『鳥たちは空を飛ぶ』(アリエスブックス、2015)です。

 

鳥たちは空を飛ぶ。/風に乗り、陽光を浴び、愉しげに、歌いながら自由に。

 

――そんな書き出しで始まる本書は、わたしたちヒトからみれば羨ましいくらいに自由に空を翔ける鳥たちが、なぜ飛べるようになったのか、本書のことばを借りれば、

あなたたちを飛べるようにしたのは、だれ?

という疑問を、神話的世界観、あるいはファンタジーとして解き明かすものがたりです。

 

他の生き物と同じように、飛ぶことを知らずに地面で暮らしていた鳥たち。「地上の楽園」で暮らしていた彼らにある噂が流れ、あらゆる生き物たちが鳥たちを襲い始めました。鳥たちは長老会議を開き、とにかく「逃げろ」という選択肢を選ぶことになります。

 

北の果ての氷の世界へ/西の大砂漠へ/南の海の孤島へ/高い山の頂へ

 

世界中の、歩くことしか知らない鳥たちが逃げまどうさまを描く、絵本好きの子どもたちや大人にはお馴染みである荒井良二さんの、いつもの美しくキュートな描画にも、今回は迫力や凄絶さが加わっています。このあたりは、文章だけで絵本の魅力を伝えるのは無理があるのですが、ここに引用してきたように、本文は漢字かな混じりで、比較的難しい漢字も使われてふりがなも振られていないことから、本書は単に子ども向けのおとぎ話としては書かれてないのだろうと想像できます(「子ども向けのおとぎ話」がダメだと言っているわけではありません)。

 

窮地に追われた鳥たちが、いかにして空を飛ぶようになったのか、その顛末をここではあえて詳述しませんが、彼らのうちのひとりが空を飛び、あとにたくさんの、世界中の鳥たちがそれに続くクライマックスは、感動的ではあるけれど、実際の鳥類の進化の歴史や、生態には整合しない、似つかわしくないものかも知れません。

 

しかしながら、言われなき暴力やことばで特定の属性を持つ人々を追い込むヘイトクライム、ヘイトスピーチがあるように、社会運動の分野で「人口の3.5%が動けば世界が変わる」という言説があるように、逞しくも美しい本書のものがたりも、わたしたちの現実と無縁ではない、と読むこともできます。

 

作家がものがたりとして描いたことを、短絡的に現実の何かと照合させることもまた、つまらないことでしょうか。それでも、絵本作家も、画家も、わたしたちも、現実に“いまここ”を生きている者の一人ひとりです。本を読むことも、実世界のフィールドで鳥たちに出逢うことも、何らかのかたちで世界に繋がって、世のなかを変えていくこともある。

 

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そんなふうに考えながら、探鳥や、鳥にまつわる作品に触れることを続けていきたいと思う今日この頃です。

 

鳥たちは空を飛ぶ

鳥たちは空を飛ぶ

  • 作者:目黒 実
  • 発売日: 2015/08/01
  • メディア: 単行本
 

 

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