「ピー」
作:津森ソト
歩いていると、「ピー」が鳴る。
「ピー」と単発で鳴ることもあるし、「ピピー」とか、「ピピピーッ」と連続することもある。
山を歩いている。山は誰かが開いた。
私ではない。が、開いたからこそ、私はいま、歩くことができる。
「ピー」は普通一般に知識を参照し、考えることができれば、ヒヨドリだ。
が、私は名前を知っているに過ぎない。シニフィアンとシニフィエ。
ヒヨドリのことはあまり知られていないという。
見られ過ぎているからだ。
もしもピーが、未知のピーであり続けたならば――
ピーはもっと神秘的な何かでさえありえた。
なんだピーか、と誰も言わなくなるくらいに。
わたしはピー。
あるいは、あらゆる方向から聞こえてくる、鳴り響く――
ピー/ピピー/ピピピーッ
を聴きながら、
歌うように山を歩いている――。
【以前の記事から:こちらは2022/1/1、元日の朝のショート・ストーリー。】
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