ソトブログ

映画と本、自然観察(あるいは40代、2児の父の日常)

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「何かが起こるのを待っているけれど、それが何か分からない」――映画『アメリカン・アニマルズ』と画集『オーデュボンの鳥』

 

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学校ないし 家庭もないし
ヒマじゃないし カーテンもないし
花を入れる花ビンもないし
嫌じゃないし カッコつかないし

 

電気グルーヴ「N.O.」(作詞:石野卓球) 

“野鳥に魅せられてしまった人たち”

 

例年より短くなった2020年の夏休み。わたしにとっては、二人の息子たちと野鳥・野球・野鳥・野球――より正確に言えば、近所の川&海で野鳥観察、家の前でゴムボール&プラバットで野球、家のなかで野球盤、近所の田園地帯をドライヴスルー探鳥――その繰り返し、という次第で、わたしたちにとっては通常運転とも言えますが、探鳥会は開かれないし、近所のグラウンドに繰り出して軟球をかっ飛ばす、というのもずいぶんやっていません。

 

 とはいえ目下、8ヶ月連続ライフリストを更新し続けている長男の、夏休みの仕上げは、3年続けてテーマに選んだ野鳥観察の自由研究。そしてわたしもそのお手伝い。今年はNikon Coolpix P900を手にほとんど息子が自分で撮った写真に、キャプションをつけてプリントしたり、表を整理したり、構成をサポートしたり。わたし自身、息子とともに鳥見を始めたこの4年弱、そして野鳥の会に入会して2年ほど、野鳥の世界に魅せられていますが、元来インドア派のわたしが画面のなかで出逢った、別の意味で「野鳥に魅せられてしまった人たち」もちょっと凄かったのです。

 

アメリカン・アニマルズ(字幕版)

アメリカン・アニマルズ(字幕版)

  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: Prime Video
 

映画『アメリカン・アニマルズ』公式サイト

 

映画『アメリカン・アニマルズ』(バート・レイトン監督、2018年・米)は、全米オーデュボン協会(National Audubon Society)の名称の由来として名を残すジョン・ジェームズ・オーデュボンの画集『アメリカの鳥類』("The Birds of America")を大学図書館から強奪しようとした大学生たちの実話を描いたドラマ映画。オーデュボン『アメリカの鳥類』といえば、初版約200部、うち現存するのは約120部ほどしかなく、現在、オークションでの時価10億円以上とも言われています。


私も浅学ながら、その存在こそ知ってはいましたが、この映画で改めて見たその現物(劇中で使われているのはおそらく、小道具/レプリカだとは思いますが)の大きさ! 天地約1m×左右約0.7mの紙面に全て「実物大」で描かれた、圧倒的に細密で美しい、19世紀アメリカの野鳥たち。

 

「何か特別な体験」のきっかけになりうる、オーデュボンの『アメリカの鳥類』と野鳥の世界

 

しかしそれ以上に驚かされたのは、それを盗み出そうとしたのが何不自由ない学生生活を送っていたはずの4人の大学生たちだった、ということ。主犯格のひとり、画家志望のスペンサーが、大学の図書館の特別室で保管されている『アメリカの鳥類』を閲覧する機会を得て、そのとき展示されていた、ベニイロフラミンゴの画に魅了されてしまったことが全ての発端――。ではあるのですが、何故、それを「盗もう」という飛躍に至ったのか?

この映画の妙味は、そういうバック・ストーリーを、実際に事件を起こした本人たちが画面に登場し、開陳していくことにあります。所謂インタビュー/ドキュメンタリーと、事件の渦中を描いたドラマが同時進行していく、不思議なスタイルの作劇なのですが、彼らが口にする、


「なぜ他の誰かではなくて、自分としてこの世に生まれてしまったのか?」「何か特別な体験をしなくてはと思いこむこと」「何かが起こるのを待っているけれど、それが何か分からない」


――というような屈託は確かに、いつの時代の若者にも当てはまる、ありきたりで陳腐でさえあるものにも思えます(映画の元になった実際の事件は2004年)。しかし何者でもない、と思い悩む若い人にとって「外」への扉、家庭や学校/地域のコミュニティ/あるいはSNSを始めとしたサイバースペース=彼らにとっての現実世界のすべての、「外側」の世界へ誘う扉と成り得、前述の彼らの言葉を借りれば「何か特別な体験」「何かが起こる」その何か、のきっかけが、オーデュボンの描いた美しい野鳥たちであったことには、Birderの端くれとしては、「さもありなん」というか、「それだけの力が野鳥の世界にはある」と思えます。

 

息子のお陰で遅まきながらこの世界を知った私にとっては、ティーンの頃の、身近な場所から「外」の世界へのアプローチは、音楽や映画や小説でしたが、「野鳥」や「自然」といった人間を超えた営みに、既に馴染んでいられている息子の姿には、羨ましささえ覚えます。『アメリカン・アニマルズ』の、スペンサー青年も、7年の服役後、現在は野鳥を専門に描く画家になっているそう。

 

オーデュボンの『アメリカの鳥類』全435点のうち、150点をピックアップしたハンディな画集『オーデュボンの鳥/『アメリカの鳥類』セレクション』がちょうど今年4月、国内で発売されています(株式会社新評論刊)。私もこの機会に手にしてみました。犯罪に手を染めずとも見られる、(A5サイズですが)オーデュボンの描いたものを通して19世紀の鳥たちの雄姿に思いを馳せつつ(なかには日本でもお馴染みの野鳥たちも!)、これからも野鳥観察を愉しみたいと思います。

 

映画『アメリカン・アニマルズ』公式Trailer

 

アメリカン・アニマルズ(字幕版)

アメリカン・アニマルズ(字幕版)

  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: Prime Video
 

前述した作劇の目新しさだけでなく、実際に若者たちが起こした行動の可笑しさ、突飛さ、哀しさが妙にリアリティがあって、忘れられない映画です。そしてやっぱり、彼らにそこまでさせたオーデュボンの『アメリカの鳥類』に俄然興味が湧いてくる。

 

オーデュボンの残した『アメリカの鳥類』全点の3分の1ほどですし、ちょっと判型が小さいのが玉に瑕ですが、その分ハンディで、巻末に画題に取り上げられている鳥たちの写真と解説も掲載されていて、「リョコウバト」など絶滅種も含めて、アメリカの野鳥たちにも、興味を唆られます。

 

※今回紹介したオーデュボンの『アメリカの鳥類』、実は現在、「全米オーデュボン協会」(National Audubon Society)の公式サイトでデジタルアーカイヴされた画像を閲覧、DLすることができます。非常に高画質で、英文ですが解説や、実物の鳥の写真へのリンクもあるので、本を買わずともこれだけで愉しむこともできそうです。

 

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