ソトブログ

映画と本、自然観察(あるいは40歳、2児の父の日常)

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オシドリとニュウナイスズメ――あるいは見られずに探しているあいだがいちばんワクワクする、探鳥の不思議。

 

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「まだ見ぬ鳥がたくさんいる」という愉しみ。

 

小学生の息子とともにバードウォッチングを始めて2年余り。県内や近場での鳥見が多く、珍鳥を求めてさあ遠征!ということがなかなか難しいなかでも、そして全くの無知から始めたわたしたち親子であっても、100種以上の野鳥を見て、写真に収めることができています。そんななかでもなかなか見ることが叶わない(叶わなかった)鳥たちもいて、わたしたちにとってはオシドリがそう。オシドリというと、「おしどり夫婦」という言葉があるように一般にもその名前はよく知られていて、カモ類のなかでも鮮やかな外観から人気の高い鳥であって、西日本では漂鳥で、ここ和歌山でも冬季には必ず飛来しているはずなので、そのうちに見られるだろうと思いつつもなかなか見られないでいました。

 

そういう「見たい鳥」のリストが息子のアタマのなかには常にインプットされていて、ヴェテラン・バーダーに薫陶を受けることのできる探鳥会や自然観察会などの機会には、そういった鳥が「どこで見られるか」をいつでも訊ねてまわっています。オシドリについてもこれまで色々な飛来場所を伺っていたのですが、先日、その場所のひとつである、和歌山県日高川町の「椿山ダム」を訪れてみることにしました。

 

日高川町というと、広いひろい紀伊半島、和歌山県の中央部、中紀地域の山間部にあたる場所。さらに南の紀南に住むわたしたちはまず、椿山ダムの下流、御坊市にある日高川の河口とその隣り町、美浜町の田園地帯、和田不毛に向かいました。

 

日高川河口でウォーミングアップ。

 

日高川は毎年冬、全国一斉に行われる「ガンカモ類の生息調査」でも調査対象になっていて、今年1月に調査に併せて開催された探鳥会には、息子も参加して(わたしは仕事の都合で行けなかった)たくさんのカモ類のほか、和歌山では他ではあまり見られないナベヅルの群れなどもここで見ています。

 

この日もヒドリガモやマガモ、カルガモ、オオバンなどの水鳥たちがたくさん見られたり、河川敷では冬鳥としてやって来たばかりのジョウビタキが飛び交っていたりと、珍しいものはいませんでしたがまずまずのウォーミング・アップ。

 

マガモ(日高川河口付近にて)

 

ジョウビタキ(日高川河口付近にて)

 

和田不毛で思わぬ出逢い(も息子は想定済み)。

 www.sotoblog.com

 

和田不毛(わだぶけ)は上記の通り、以前にもこの「ソトブログ」で紹介した農耕地であり探鳥地で、春・秋のシギ・チドリ類をはじめ様々な野鳥が見られるようです。わたしたちもこの春訪れた際、ムナグロ、オオヨシキリなどに出逢うことができました。今回も農道を、農作業の邪魔にならないように歩いてみることにしました。和歌山県は広い面積のほとんどが山地で、わずかに拓けた海沿いの平地に、見渡すかぎりに拡がる農耕地というのは、意外と少なく、また、ふだんはクルマ移動がほとんどなので、こうして改めて歩いてみる、というのはそれだけで心地の良いもの。というのはしかし、バードウォッチングを始めるまでなかなか気づけないでいました(わたしの場合)。

 

ケリ(和田不毛にて)

 

タヒバリ(和田不毛にて) 

 

途中、地元高校の生物部と思われる若いバーダーたちに挨拶をしつつ、スズメやカラス、ハクセキレイにケリ。といったいつもの鳥たちを眺めて(タヒバリもいました)歩いていると――、「あれ、ニュウナイスズメやッ。」と息子の声。畑の上の電線に数羽で留まっているスズメがそうだというのですが、ニュウナイスズメは、「日本にいる2種のスズメのうちの珍しいほう」という程度がわたしの認識で、これまで実際に見たことがなかったのでわたしには遠目では違いがわかりません。息子も初めてなのですが、ここ和田不毛にはいる、という情報を仕入れていたようで、「違いはあとで説明するからッ。」といってカメラを構えてそっと近づいていきます。

 

ニュウナイスズメ(和田不毛にて)。この写真だと電線が頬に被ってわかりにくいのですが――、

 

頬に黒い点がありません。スズメの場合は下の写真のように、

 

スズメ(和田不毛にて)。頬に黒い点。知らないと騙し絵のようですが、確かにこちらが、野鳥に興味を持つ以前から知っていたスズメ。という感じがします。

 

――写真はメスだと思うのですが、よく見るとスズメに特徴的な、頬の黒点がありません。鳴き声も、スズメと同じような「チュン、チュン」なのですが、でもちょっと違う。こんなことも、野鳥に興味がなければまったく見逃してしまうことですが、こうしたディテールを読む面白さは、元来インドア派のわたしにとっての、文学の修辞や文体、「てにをは」や人称の選択へのこだわり、といった愉しみ方に通じるものがあります。

 

オシドリを求めて日高川を遡上!

 

昼食を、息子とこの街に来るといつも行く、ラーメンで済ませたあと、本日のメインターゲット、オシドリを求めて日高川を上流へ向けて、紀伊半島の山間部、日高川町初湯川の椿山ダムへ向けて走ります。美浜町〜御坊市の市街地からダムまでは約30km、クルマで30〜40分程度、その間およそずっと、日高川に沿って登っていくことになるのですが、残り5kmに差し掛かったところで、助手席の息子の眼が、今度は水面の鳥影を捉えました。

 

「オシドリおったッ!」

 

――本当にいつもこんな調子で、息子とともに始めたわたしの鳥見ライフは、今のところこの「眼」なしには成り立ちません。山あいの細道のため、いったん通り過ぎてUターン、通行車両の邪魔にならないところにクルマを停めて、二人で先ほどの「地点」まで走っていくと、やはりいました。作りものめいた派手な色彩のカモ類。オシドリに間違いありません。聞いていたオシドリの特徴らしく、車道から対岸の木陰に数羽、佇んでいます。第一発見者の息子に写真を撮らせるため、息子のカメラより倍率の高い、わたしのNikon P900を息子に渡して数枚。

 

初めてのオシドリ(日高川にて)。カモ類のなかでも警戒心が強い鳥らしく、近づいて撮ることは叶いませんでしたが、自分たちで撮った写真で作る「My図鑑」にまた一種加えることができました。

 

 

 

そして息子は自分のカメラでも撮りたいといって、クルマに置いてきたカメラを取りに戻ります。息子からP900を受け取ったわたしがほんの気持ち程度、近づいてシャッターを切ろうとするそのとき。視界の左端から、より多く、30〜40羽程度のオレンジ色の塊が飛び込んで来るのがわかります。近くの木陰に仲間がいたらしく、数十〜数百メートル離れたところの、こちら岸の木陰に飛んでいったよう。とりあえず近くに残った数羽をなんとかカメラに収めて、息子が戻るのを待って、群れが降りたあたりまで歩いてみると、またも視界の隅から群れが飛翔して、遠くまで去っていきました。

 

行っちゃったね。まあ、撮れたからいいか。と言い合って、一応。と、当初の目的地であった椿山ダムへ。こちらにはオシドリはおらず、おやつ代わりに持参した菓子パンをダム湖の駐車場(近くに吊り橋と、有名なヤッホー(山びこ)ポイントがある)のベンチで食べて、ささやかな満足感を抱えて家路に就いたのでした。「――野鳥ってさ、まだ一度も見られていない、どこにいるの? あそこにいるらしい、見たい、見たい! と思って探し求めているときが、いちばんドキドキするよな。」

 

日本鳥類目録 改訂第7版』(日本鳥学会)に収録されている日本の野鳥は全633種。その全てを見ることは、おそらく個人には難しいのでしょうが、これから200、300と見ていくことができれば、また違った地平が見えてくるのか、わたしの好きな文学や映画の大海と同じように、泳ぎ、こだわり、愉しみ続けていきたいものです。

 

オシドリ(奈良市・水上池にて)

 

オシドリは後日、こちらも探鳥地として知られる奈良市は平城宮跡の近く、水上池でも見ることができました。奈良市内でも最も大きく、古いと言われる巨大なため池である水上池を歩いていると、幾人ものバーダーの方々が、カメラや双眼鏡を構えていらっしゃいました。ここでも何人かの方にお話を伺うことができ、これからの探鳥に生かしていくことができそうです。こんなふうに現場をクエストして、新たな情報・知識を得ていくことも、鳥見ライフの密かな愉しみ。

 

 

今回もフルに活躍した野鳥観察、自然観察の友=愛機、Nikonの高倍率コンデジ、Coolpix P900。ヴェテラン・バーダーの諸先輩方の多くはハイエンドな一眼レフに長大な望遠レンズという装備で、それはそれで憧れではあるのですが、2000mm相当の高望遠(83倍ズーム)、「鳥モード」で気軽に野鳥撮影ができるコンデジ、このP900が今は、欠かせません。バードウォッチングはお金をかけようと思えばいくらでも注ぎ込める(込めてしまえる)趣味なのは間違いないですが、そんなに身構えることなく、キラクに愉しめるものなんだよ、ということを教えてくれたカメラ。自然観察会などに参加すると同じ機種を使われている方も多く、頼もしい一台です。

 

 

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