田辺市街地から1時間半(でもまだ田辺市)、熊野本宮大社から熊野古道ウォーク。
2019年3月3日の桃の節句、熊野本宮大社に集合して行われた、和歌山県立自然博物館の主催の「熊野古道の植物観察」というイベントに小学3年生の息子とともに参加してきました。
熊野三山のひとつである熊野本宮大社の所在地は、田辺市本宮町。紀伊半島西岸の田辺市街地から車で1時間半程度なのですが、そこはまだ田辺市内であって、私自身他所からこの地へ移り住んだ身としては、紀伊半島の、熊野の広大さを思わずにいられないのですが、定住していると意外と、「いざ、熊野古道を歩こう」ということにならなくて、随分と久しぶりのような気がします。
熊野本宮大社境内、タラヨウのご神木の下にある「八咫ポスト」。
また、田舎育ちのわりにアウトドアと無縁に生きてきて40代に突入する前後から、小学生の長男との「自然観察教室」への参加でようやく自然のなかで遊ぶことを覚えた私にとっては、植物の名前や見分けはとても苦手なだけでなく、そもそもそれらに対する親しみや興味、というのはこれまであまり持ったことがありませんでした。
ところがそんな私に似るところなく、こうした週末のイベントを愉しみにしている息子は植物/鳥/昆虫の生態系的な繋がりにも興味を持ちつつ、博物的に植物種の名称もどんどん記憶していきます。
実際に野鳥がよく食べる木の実を、著者が「実際に」食べてみたりしてどんな味がするのか解説しながら紹介する、ユニークなガイドブック。息子の自然観察の必携アイテムのひとつ。
本宮大社近くの古道沿い。「コショウノキ」の群生の芳香。
生憎の小雨日和で、山歩きなので天候を見ながら、ということになったのですが、この日のいちばんの見どころのひとつであった、「コショウノキ」の群生は、本宮大社からほど近い「祓殿王子(はらいどおうじ)」のそばの古道沿いということで、まずはそちらに向かいました。
コショウノキ(胡椒の木、学名:Daphne kiusiana Miq.)は、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属に分類される常緑小低木の1種。和名は、果実がコショウのように非常に辛いことに由来する。(コショウノキ - Wikipediaより)
濡れそぼった低木樹に小さな白い花をつけているコショウノキの群生は、本宮大社近くの古道沿いというロケーション、肌寒い気候と靄がかった空気のなかで視覚としてもとても幻想的なのですが、その花の芳香もまた、周囲に甘い薫りを漂わせていて、いきなり別世界に連れて行かれたようでした。
本当に「辺り一面」という感じでコショウノキが拡がっています。このような群生は、このあたりでも、ここだけだそう。
3月の熊野古道で出会った植物たち。
そこから雨足を見ながら熊野古道を1時間ほどかけて、2km先の「三軒茶屋」跡まで歩いたのですが、この日は県立自然博物館の主催ということで、学芸員の方々や、地元の専門家の先生方の案内で道々の植物たちの解説をしていただきながら歩くその道程こそが、いつも思うのですがこうした観察会の醍醐味というもので、映画や小説を味わうのにその文脈や背景を知ることで愉しみが増すのと同じように、
イワナシ。
「この“イワナシ”という植物は実は、こういうところにはあるはずのないものなんですよ。あとでネットでもいいのでちょっと調べてみてください――。」
(私、その場でスマホで検索してみる。)
「あ、もう見てますね。そう、北海道とか日本海側の高山にあるべき植物で、本来はこんな低いところにはないんですね。」
というふうに――。それが何故なのか、先生方はあえて説明しませんし、簡単に説明できないのかもしれません。こういういことが無類に面白い、と感じます。
ヤブコウジの実。
ヒカゲノカズラ。
行程の半ばほどでは熊野本宮大社の旧社地である大斎原(おおゆのはら。下の写真に見える大鳥居の背後に拡がる森)が見渡せる「ちょっとよりみち展望台」に立ち寄ったり、本日の目的地となった「三軒茶屋」跡では、こちらも小さく可憐な花の美しい、春の訪れを告げる「バイカオウレン」がささやかに咲き誇っていました。
「ちょっとよりみち展望台」から大斎原を望む。
2000mm相当望遠のNikon P900で大鳥居が見えます。(ひとつ上の写真の中央あたり)。
地面に接してひっそりと咲く「アツミカンアオイ」の花(萼筒。画面中央の暗紫色の筒状のもの)。非常に地味ですが、カンアオイは栽培種としても人気があるようです。でもこうやって、足許を掻き分けて見つけるのが愉しいですね。
熊野古道の「三軒茶屋」にて昼食。妻が誂えてくれたお弁当を食べつつ、足許に咲いているバイカオウレンを眺めたり、写真を撮ったり、息子のルーペでじっくり観察したり。
バイカオウレン(梅花黄蓮、学名:Coptis quinquefolia)はキンポウゲ科オウレン属の多年草。(バイカオウレン - Wikipediaより)
生憎の天候ではありましたが、こうした霧がかったしっとりとした空気こそが熊野の山らしい、という学芸員の先生の言葉もあり、普段なら低気圧とともにどんよりと頭も重くなり、頭痛持ちの私は気持ちも沈みがちになる雨模様のこんな日でも、こうして足許の自然に目を凝らして外を歩くことで、少しの心地よさを感じるという、そんな愉しみを味わうことができただけでも、この日は収穫でしたし、少しずつ年を取りながら、自然に親しむのもいいものだと思う、今日この頃です。
【以前の記事から:本宮大社からは“仙人風呂”で知られる川湯温泉も近いです(仙人風呂は毎冬2月末まで。】
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