この街に、約30年ぶりにやって来た。
先日地元紙でこういう記事を見つけました。(「紀伊民報」平成30年2月20日)
――正確には、私自身は県外で単身赴任、週末自宅に帰る生活をしていますので、小学生の長男が記事を見つけて、電話してくれたのです。電話口で息子はこの記事を私に読み聞かせるように、
「“クロツラヘラサギは、東アジアにのみ生息する数少ない冬鳥”なんやって。
で、“国際自然保護連合のレッドリストでは絶滅危惧種、環境省のレッドデータブックでは「絶滅危惧ⅠB類」*1に選定されて”るんやって。
“主に朝鮮半島の西南部と中国の一部で繁殖し、台湾、ベトナム、中国、韓国、香港で越冬する”……」
などとほぼ息継ぎせずに報告してくれました。
というわけで先週末(3月3日)、息子と二人、このクロツラヘラサギを探しに、記事に出てきた会津川河口近くに行ってきました。といっても最初は、長男を置いてまだ2歳の次男と二人で。それというのも当日は3月3日、桃の節句の日で、彼ら息子たちの従妹の初節句の準備で家のなかがバタバタしており、制御の効かない2歳児は、祝席を用意しているお昼の支度のあいだ、「外で遊んで来て」ということに。
クロツラヘラサギをこの目で。
こちら和歌山県田辺市は紀伊半島南東部、太平洋に面した海沿いの街。冬季の海辺、河口域はカモメ類、カモ類などの渡り鳥や、サギ(ダイサギ、コサギ、アオサギ)やカワウなどの水鳥たちで賑わっています。
そんななか、市庁舎の前のビーチ、扇ヶ浜公園で次男が今ハマっているストライダー(ペダル無しの自転車)でひとしきり遊んだあと、会津川の土手を鳥たちを眺めながら歩いていきます。
海岸の波消しブロックに佇むカワウ(とアオサギ)。
河原にはツグミが、何かを探すように歩いています。
下流の汽水域の広い水辺でカモやカモメの群れを眺めながら、シラサギがいると目を凝らしてカメラを向けて確かめて見ますが、クロツラヘラサギの姿は確認できません。
次男に、「あの白いのはカモメ、あの黒いのはオオバン、茶色いのはカルガモ」などと話しつつ、諦めかけて引き返していると、向こうから大きな望遠レンズを担いだ年配の男性と、少し小ぶりのカメラを抱えた女性の夫婦らしき、そして間違いなく、バーダーらしきお二人が歩いてきます。私たちとすれ違って川沿いにある小さな社にお参りされているお二人に話かけて見ました。
「鳥を撮られるんですか?」「ええそうですよ」「新聞で見たんですけど今この辺で、クロツラヘラサギというのが見られるそうですね」「今そこのカモメの群れのなかにいるんですよ」「!」
やっぱり! 思わぬ先達との出会いで、クロツラヘラサギを見るチャンスが訪れました。カモメの群れのなかで眠っているということで、土手から河原に降りていきます。
カモメたちの群れのなかに一本足で立ち、身体に顔を埋めているクロツラヘラサギ。
時折顔を出して、その特徴的なヘラ状の嘴を持った面構えを見せてくれます。
興奮を抑えつつ写真に収めて、帰ってきて長男に報告します。長男は歓びつつも、自分がその場に居合わせなかったことを悔やんでいるようでしたので、雛祭りのお祝いのあとは長男と2人で、会津川に向かいました。今度はバードウォッチャーには出会いませんでしたが、クロツラヘラサギ、待っていてくれました(そういうわけではないでしょうが)。
ダイサギやコサギ、アオサギといったサギ類は数羽が固まって小さなグループを作っていることも多いのですが、独りきりのクロツラヘラサギは、他のサギたちと行動をともにしている様子はありません(そもそもクロツラヘラサギはトキ科なのですが)。
このときもクロツラヘラサギは、やはり首を丸めて休んでいて、時々思い出したように顔を出していました。「日本で越冬中に鳴くことはほとんどない」(『ヤマケイ文庫 くらべてわかる野鳥 文庫版』(山と渓谷社)より)そうです。
飛んでいく姿も辛うじて収めることができました。アオサギやダイサギもそうですが、近づいてみると羽を拡げた姿は思っている以上にとても大きくて、雄々しさを感じます。
長男は、「今まで見た鳥のなかで一番珍しい鳥を見ることができた!」ととても歓んでいました。全世界でも3,000羽余り、日本には九州で300羽程度が越冬する程度だというクロツラヘラサギ。彼らをここ和歌山で見られるのは次はいつでしょうか、いつまでも名残惜しそうに土手に座って鳥たちを眺めている息子の姿を見ていると、彼らの暮らしを守る自然であって欲しい、それを(出来る限り)護っていきたい、と素直に思いました。
今回も活躍したKindle図鑑(紙版もあります)
【子どもたちとの鳥見行と、道具たち】
*1:レッドリストのカテゴリー(ランク)(環境省HPより)によれば、「絶滅危惧ⅠB類(EN)」とは、「IA類(「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの」)ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの」とされている。