ソトブログ

映画と本、自然観察(あるいは40歳、2児の父の日常)

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「あの人とあの人とあの人が出ているからあの雑誌を買う!」 ――<けもの>の青羊さんと、トオイダイスケさん、翻訳家の柴田元幸さんが「怒りの文学」を語る『ブルータス』#861号。

 

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私の2017年。掛け値なしにいちばん聴いた『めたもるシティ』。そして青羊さんのツイート。

 

 

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年の瀬も押し迫り、私的には2017年のベスト音楽アルバムは、何度もこのブログで紹介してきたシンガーソングライター、青羊(あめ)さんによるソロ・ユニット<けもの>の『めたもるシティ』を置いて他にないのですが、タイムラインを眺めていたら、青羊さんご本人のこんなツイートが目に留まりました。

 

  

雑誌『ブルータス』の本特集、その名も<危険な読書>で、けものの青羊さん、『めたもるシティ』で作編曲、ベース、ピアノを担当したトオイダイスケさん、アメリカ文学の翻訳・紹介で知られる柴田元幸さんが鼎談されているというのです。

 

初めてその本を手に取る読者にとっては、新刊も旧刊もない。

 

 

個人的には最近では雑誌を買うことも少なくなっていて、ましてひとつの特集の、たったひとつの記事を目当てに雑誌を買うというのは久しぶりの体験でした。そして一種、心地よい体験。特集<危険な読書>のリード文にはこうあります。

 

当たり前と思われていた価値観が世界中で次々と崩れ去るいま、もはや流行りの本をいち早く読んだとか、これまで読んだ本の数を指折っていてもつまらないじゃないですか。たとえ一冊であっても深く心に突き刺さるような、常識がひっくり返るような読書こそを楽しみたいのです。

 

雑誌『ブルータス』#861(2018年1月1・15日号)より。

 

20年前、“遊べる本屋”(当時はそんなキャッチフレーズだった)ヴィレッジ・ヴァンガードでアルバイトをしていた私はそこで、

 

「初めてその本を手に取る読者にとっては、新刊も旧刊もなくて、その人にとっての新刊、<新しい出会い>なのだ」

 

という趣旨のことを学びました。一字一句このフレーズ、ということではないのですが。ヴィレッジヴァンガードには独自の「棚の定番」のラインナップがありました(今もあるのかな?)。*1

 

――小説の棚、海外文学はアメリカ文学(何せニューヨークのジャズクラブから店名を採っているわけですから)、それもハックルベリー・フィンやパパ・ヘミングウェイをルーツに、ビートニク以降のカウンターカルチャーを中心に、とか、日本文学ならやはりカウンターカルチャーを経験したW村上、高橋源一郎以降の作家たちだとか、――精神世界はフロイド、ユングから岸田秀、きたやまおさむ、北山耕平を経由してネイティヴアメリカン、ニューエイジまでとか、――クルマの棚にはこのメーカーのミニカーの隣にこの雑誌(私の苦手分野で途端に具体性を欠いてますが)、というような。

 

(※但し上述の棚構成というか、記述は当時の私の浅薄な知識と、現在の私の薄弱な記憶力に拠るものですので、当時や今のヴィレッジヴァンガードのリアリティに沿っているかは保証できませんが。)

 

つまりは店の書棚じたいがある種の価値観の提示になっていて、それはあたかもまだ雑誌が価値観を提示できた幸福な時代と、幸福なリンクをしているようです。しかしそれは本当に今は通じないものなのでしょうか。

 

脳内でも現実世界でも、好き勝手に生きること。そんな幸福を夢見て。

 

 

<けもの>の二人(正確には、けものは青羊さんのソロユニットであって、トオイさんは『めたもるシティ』の制作パートナーの一人、ということになるのですが)と翻訳家の柴田元幸さんがこの『ブルータス』誌面で共演しているのは、その『めたもるシティ』でけものが、英国のR&Bデュオ「HONNE」(ホンネ。日本語の「本音」からユニット名を採っている)の楽曲、“Someone That Loves You"の日本語詞カヴァーをトオイさんの訳詞により収録するにあたって、柴田さんが作詞協力をしたことに由来するようです。

 

It's beautiful 今 歌おう
夜にまみれよう ここでこのまま
You're beautiful でもこれでもう
一つの視線が 言葉を奪う

 

けもの「Someone That Loves You」(日本語詞作詞:トオイダイスケ)より

  

そんな突拍子もないジャンルクロスオーヴァーが、今の時代に成立しちゃうの? ということを次々と実現させてしまうけもの=青羊さん。

 

『めたもるシティ』ジャケットを飾る池野恋さん(『ときめきトゥナイト』で知られるマンガ家)のイラストに、ゴダールや伊勢丹や長尾謙一郎が引用される歌詞世界。好き勝手に生きる粋で無慈悲で控えめでおしとやかで恐ろしいアーティスト。色んなことにがんじがらめの私たちだって、脳内でも、現実世界でも好き勝手に生きることは出来るんだよ、と思わせてくれる<けもの>=青羊さんを追いかけていると、そのような幸福を夢見て、ひとつの文章のために雑誌を買ったり、そのフレーズだけのために本を読んだり、このリフレインのためだけに音楽を聴いてみたり、そして必ずじっくり、アルバムの頭からおしまいまでCDで聴いてみたく、なったりするのです。そしていちばん最後のは、もちろん<けもの>の『めたもるシティ』です。

 

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2018年にそう思わせてくれる音楽は、どんなのでしょうか?

 

 

*1:このあたりのことは、書評家の永江朗さんによる初期のヴィレッジヴァンガードを取材、研究した『菊池君の本屋』という本に詳しい(随分前、それこそアルバイトをしていた頃に読んだのでうろ覚えですが)です。