もとい、「湯ったり」(言ってみたかった)。
ぼくはバスに乗り損ねてここに来た
バスには停留所もなく出発時間も決まっていなかった
ただ夜、夜とだけ記されていて
ぼくたちはみんなそれぞれの場所と時刻を見つけなければならない
バスとは宇宙船のようなものだった(友部正人詩集『バス停に立ち宇宙船を待つ』より)
川を掘ればお湯が湧く、その名の通りの「川湯温泉」。
このあいだの週末。和歌山県田辺市本宮町、熊野三山の一つ熊野本宮大社からも車で10分程のところにある川湯温泉の、「仙人風呂」を体験してきました。当地を流れる熊野川支流の大塔川の川底を掘れば温泉が湧き出す川湯温泉では、夏には水遊びをしながら川原や川底を掘って「マイ温泉」を愉しむことができますが、毎年この季節(12月から2月末まで)になると、川の一部を堰き止めた大露天風呂である「仙人風呂」が作られます。
そのサイズは幅約40メートル、奥行き15メートル、深さ60センチ(毎年若干の変動あり)。「1,000人は入れる」というのもあながち冗談じゃない広さです。
源泉73℃の温泉を、川の水で40℃前後のいい湯加減に調整しているそうです。
田辺市街地から車で1時間、熊野の自然に囲まれて入る野趣溢れる大露天風呂。
田辺市街地から車で1時間ほどであって、夏には水遊びにもよく行っている川湯温泉ですが、この仙人風呂は久しぶり、子どもたちにとっては初体験となりました。上の写真の道路を挟んだ上に並ぶのが温泉旅館で、写真では見切れていますが、写真の右上に駐車場、河原にも臨時の駐車場があります。
全体にぼかしを入れていますが、大きさが伝わるでしょうか。
温泉ですからプライヴァシーもあって写真でお見せしにくいのがちょっと難点ですが、仙人風呂は野外、しかも混浴ですから、水着着用が必須。予め水着を仕込んでおいて駐車場から直行するもよし、あるいは仙人風呂の向かい側にはちゃんと脱衣場もあります。ただどちらからも川原まではちょっと寒いので、頑張りましょう。
本当に野外、本当に川ですから、“野趣溢れる”とはまさにこのこと。
土曜日の昼間ながら、この日はまだ結構空いていました。まだ12月に始まったばかりなのと、普通に温泉旅館もある温泉郷ですから、夜の方が人気なのかもしれません。私も一度泊まりに来て、夜に仙人風呂に入ったことがあるのですが、本当に星空が綺麗ですよ。お湯がちょうどいい熱さになっているのが本当に不思議で、水量などをうまく調整しているのでしょうが、外気が冷たく寒いのもあって、入って温まっては外に出て、
「暑い!」「寒い!」「暑い!」「寒い!」
と繰り返すのが、(身体にいいのかどうかはわかりませんが)とても気持ちいいです。一つ気づいたのはここは本当に自然の川ですから、川原も川底も大小の砂利がゴロゴロしています。川原を歩くのに、クロックスなどの濡れてもいいサンダルがあると便利です(足裏がけっこう痛いです)。お湯の中は大勢が入るわけですから外履きはよくないでしょうけど、プール用のサンダルとかマリンシューズなどがあると、足腰に不安がある方はいいかも知れません。
お風呂に入りに来たわけじゃないけど、傍にはカモも来ていました。
後ろに見える仙人風呂との境界には湯気が立っています。
堰き止めた「仙人風呂」の外は普通の川ですので(といっても所々自然に温泉が湧いたりしていますが)、こうやってマガモが泳いでいたりします。(そういえば夏にはここでサンドイッチを食べていて、トビに襲いかかられたこともありました)
そしてこの川湯温泉の「仙人風呂」、12月〜2月末の期間中、6:30〜22:00まで、ずっと無料なのです。よしず張り(下写真)の囲いだけの開放感、脱衣場の掘っ立て小屋然とした感じなど、いい意味での緩さ、ひなびた感じが私は好きなので、こういうところで紹介することで映画『フィールド・オブ・ドリームス』みたいに一斉に観光客が殺到しても困るのですが(ないない)、ぜひ他府県、遠方の方にもおすすめしたいスポットです。
よしずの柵の左が仙人風呂。右は大塔川の流れで、仙人風呂の場所も川で、本来は繋がっています。川の中をよく見ると、おそらくカワムツやオイカワのような小魚が泳いでいました。
【川湯温泉および「仙人風呂」】
所在地:和歌山県田辺市本宮町川湯
※仙人風呂は12月~2月末までの実施。詳細は、下記熊野本宮観光協会ウェブサイト(川湯温泉のページ)などでご確認下さい。
http://www.hongu.jp/onsen/kawayu/
お風呂のあとにブックカフェでゆったり。新宮市熊野川町九重の「Bookcake kuju」。
そしてお風呂のあと。前述したように世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の熊野三山のひとつ、熊野本宮大社までも5キロ、約10分程なので、行き帰りに参拝するのもいいですが、私と同じ文化系の人へのオススメは、ここから新宮方面へ車で15キロ弱、20分程の新宮市熊野川町九重にある「Bookcake kuju」。廃校になった旧・九重小学校校舎をリノベーションしたカフェ+本屋さんで、本の選書は京都の個性派書店として有名な、「ホホホ座(旧ガケ書房」さんが手がけています。
今回は行けなかったのですが、11月の初めに訪れた際には「猟師」本が面陳されていてちょっとしたフェアのようになっていたりして、個性的なラインナップの本棚を眺めるだけでも愉しいですし、カフェのコーヒーも美味しいし、お隣には天然酵母、石窯焼きのパン屋さん「パン むぎとし」もあって、長時間のドライブの休憩がてら、ゆったりと過ごすことができます。こういう場所に来るとなぜか、大好きな翻訳家、藤本和子さんの本のタイトル、『どこにいても、誰といても』という言葉を思い出します。どこにいても、こういう時間がいちばん、貴重なものなのかもな、と思ったり。
和歌山県、紀伊山地のど真ん中らしく、「猟師」フェア。
大好きなフォークシンガー、友部正人さんの詩集を買うことができました。造本も素晴らしい、素敵な本です。(『バス停に立ち宇宙船を待つ』2015年、ナナロク社)
Bookcafe kujuも川のほとりの山の中。こんな場所に本屋があって、観光客や地元の人が思いおもいに過ごしているのです。
【Bookcafe kuju】
https://ja-jp.facebook.com/bookcafekuju/
【パン むぎとし】
http://www.mugitoshi.com/
所在地はどちらも:和歌山県新宮市熊野川町九重315番地(旧九重小学校校舎)
※連絡先、営業時間等詳細は上記各店舗のサイトをご覧下さい。
【文中で触れた本について】
井上陽水、高田渡らと同世代。歌も大好きですが、独特の言語感覚の詩も本当に素敵です。
リチャード・ブローティガンなどの名訳で知られる翻訳家・藤本和子さんが、アメリカ人の夫、ペルー生まれの娘、韓国生まれの息子との暮らしを綴ったエッセイ。