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映画レビュー『ズートピア』――過ちを認めうること/"Try, Try, Try"

 

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 ズートピア
原題:Zootopia
製作年:2016年
監督:リッチ・ムーア、バイロン・ハワード


昨年の公開時、興行的にも批評的にも大きな評判を呼んだ本作。当時、“欠点がないのが唯一の弱点”といった評も耳にしつつ、私は今日まで、この『ズートピア』を観ていませんでした。「観たら絶対面白いし、感動することもわかっているのだけど……。」そう思っていました。

 

「なりたいものになれる世界=ズートピア」の表と裏を描く傑作。 

 

今回、2歳の次男のためにDVDを手にしたのですが、(子どもより先に)初めて観て、それが杞憂だったことがわかりました。

動物たちが実際の動物の特徴を持ったまま、人間のように暮らす「ズートピア」を舞台に、“史上初のウサギの警察官”という夢を通して、なりたい自分になろうとする主人公・ジュディの成長を、キツネの詐欺師ニックとの出会いや、肉食動物の行方不明事件の捜査を通じて描くストーリーは、既に公開から1年あまり、たくさんの人に共有されていることと思います。

 

誰もが夢を目指す理想郷としてのズートピアが、実は動物の種族間の偏見や差別に満ちていて、「世界をよりよく」するために警察官を目指すジュディさえ、その偏見から無縁でないことなど、現代の人間社会の写し絵のような世界観には説得力があります

しかもそれが、これ見よがしのおためごかしではなく、アクションやサスペンス、刑事物のバディ・ムービーといったエンターテインメントのツボを押さえた、ストーリー上の必然として描かれているところが素晴らしい。

 

自らが思わず発した肉食動物への偏見の言葉によって、(力に勝る肉食動物と、数に勝る草食動物間の)社会の対立構造を煽る結果を招いたことに責任を感じ、一度はズートピア警察を辞したジュディは、肉食動物行方不明事件の真相に気づき、再びニックに協力を求めるために彼の許を訪れます。

そして自身の過ちを認め謝罪をし、ニックがそれを受け入れるシーンでの、ジュディの言葉の誠実さには、誰しも心打たれます。

 

本作とは違うかたちの"Try"について。スマッシング・パンプキンズの"Try, Try, Try"

 

ただ、本編が幕を閉じ、シャキーラが、劇中のズートピアの人気歌手、ガゼルとして歌う感動的な主題歌"Try Everything"が流れるのを聴きながら、私が思い出していたのは、90年代に一世を風靡したオルタナティヴ・ロックバンド、スマッシング・パンプキンズの"Try, Try, Try"という曲でした。

スマッシング・パンプキンズの解散(バンドはその後2006年に再結成している)直前、2000年のラスト・アルバム『マシーナ/ザ・マシーンズ・オブ・ゴッド』からのシングル曲ですが、本作はそのミュージックビデオの衝撃的な内容が反響を呼びました。

 

www.youtube.com


薬物依存症で路上生活者の男女のカップルの、妊婦である女性が身体を売ったお金で薬物を買い、注射をして幻覚を見る様子が描かれています。

 

Try to hold on
To this heart
A little bit longer
Try to hold on
To this love aloud
Try to hold on
For this heart's
A little bit colder
Try to hold on
To this love

 

The Smashing Pumpkins "Try, Try, Try"
Lyrics by William Patrick Corgan 

 

この曲のMVがこのようなものであることによって、「この愛が/この気持ちが冷めないうちは、この気持ちを持ち続けよう」と歌う詞の、悲痛なまでの切実さが伝えられています。

 

 過酷な現実を乗り越える方法論(描くことと描かないこと)。

 

もちろん、その過激な描写ゆえにほとんどOAされなかったというこのMVと異なり、ファミリー・ムービーである『ズートピア』に、現実の、ほんとうの辛辣さ、残酷さは描かれません。

しかし差別や偏見を乗り越えようと努力しつつ、夢や希望に満ちたこの世界は、"Try, Try, Try"に描かれたような現実を含むものです。全てを取捨選択して描くことのできるアニメーションにおいては、十全に描かれているように見える世界で、しかし、「そこにないもの」は現実にないものと錯覚しがちです。子どもたちにそれを強調する必要はないでしょう。しかし私たちは、現に世界がそういうものであることを知っています。

 

だからこそ、『ズートピア』のような希望に満ちたハッピーエンドも、"Try, Try, Try"のような、厳しく、終わりのない哀しみに満ちた作品も、私たちの心を打つのです。

 

ズートピア MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー(クラウド対応)+MovieNEXワールド] [Blu-ray]

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Machina: The Machines of God

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