ソトブログ

映画と本、自然観察(あるいは30代後半、2児の父の日常)

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“標本で表現する”――自然観察教室で昆虫採集と標本作製の本当の面白さを学ぶ。

「ひき岩群国民休養地」のふるさと自然公園センター(和歌山県田辺市)

7月17日。小学二年生の長男と二人で、「ふるさと自然公園センター」での自然観察教室に参加しました。本日のテーマは「昆虫採集と標本の作製」。

田辺市の施設であるふるさと自然公園センターは「ひき岩群国民休養地」内に整備されており、自然観察教室はほぼ毎月1回の開催。専門の指導員や高校の理科教員、行事によって近隣の博物館等の学芸員など、自然科学のスペシャリストの先生方の指導のもと、広く小学生から一般まで参加するこができます。

県外出身者である私はこの施設の存在についても、そもそも田辺市の自然環境についてもまったくの無知だったのですが、長男が幼稚園の年長になった頃に妻がこの自然観察教室の情報を入手してきて、以後ちょくちょく参加――というより、「植物の採集と標本の作製」「野鳥観察」「粘菌の観察」「夜鳴く虫をさがそう」といった毎回のテーマの面白さはもちろんのこと、子どもたちの質問攻めにも「わかることは答えます。わからないことは答えられません(笑)」とユーモアも交え気さくに答える先生方の人柄と博識に魅せられた長男が、毎月何を措いてもこの教室を楽しみにしていて、よほどのことがない限り毎回参加するようになりました。

 

今回のテーマは「昆虫採集と標本の作製」

今回の「昆虫採集と標本の作製」は、“夏休みの自由研究のお助け講座”ということで、参加者は親御さんと一緒の小学生の子どもたちがメイン(ウチもその1組)。とはいえこの自然観察教室、意外と参加者が少ないんですよね。今回も十数人といったところ。少子化とはいえ人口7万弱の田辺市にあって、このテーマなら、もっと子どもたちの参加があってもよさそうな気がするのですが、少人数のアットホームな雰囲気が居心地がいいのは長男も、実は私も同じ。あまり人数が増えて、ガチガチの運営になるのも嫌だし。こういっては失礼にあたるかも知れませんが、官製の施設のわりにラフな感じの運営はかえって好印象というか、参加者としてもキラクでいいのです。

 

南方熊楠も愛したひき岩の自然

施設内の研修室で車座になって簡単な説明を受けたあと、捕虫網を持って、「ひき岩群国民休養地」である近隣の自然を散策します。このあたりは田辺の市街地から5キロほどの、「ひき岩」と呼ばれる奇形の岩山が並ぶ丘陵地で、田辺市に暮らしたかの南方熊楠が、植物や菌類の観察や採集に明け暮れた場所ということもあって、豊富な植物相や生物相に恵まれています。散策コースも整備されていて、今回も小川や蓮池に沿って歩きながら、虫たちだけでなく、木々や草花、小川を泳ぐ魚たちを、先生方の同時解説つきで(!)見て回ります。

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ヒキガエルに似た「ひき岩」。Wikipediaより

 

昆虫採集の必需品、「毒ビン」と「三角紙」

昆虫採集というと虫カゴを想像し、実際に子どもに持たせていたのですが、今回は標本作製が目標なので、カゴのなかで暴れて翅や脚が千切れたり、姿かたちが傷つかないように、酢酸エチルを含ませた脱脂綿を入れた「毒ビン」(主に甲虫に使用)に入れたり、パラフィン紙で作った「三角紙」(トンボやチョウに使用)に挟んだりして捕獲するのだそうです。ここらへんは昆虫採集の基本の「き」みたい。

 

アマゾンでも活躍した捕虫網で

この日はあいにくというべきか絶好のというべきか、ピーカンの夏日和で、子どもたちは汗だくになりながらトンボやチョウを追いかけます。それを見ている大人たち(というか私)も同じように夢中になります。先生たちも、先日アマゾン(仮想世界のマーケットではありません)での捕獲にも使用したという本格的で大きな捕虫網をいともたやすく振り回して、あちらも生存のために必死に逃げ回るチョウなどを、華麗に捕らえてみせます。

チョウだけでもキタキチョウ、モンシロチョウ、ベニシジミ、ウラギンシジミ、カラスアゲハ、アゲハチョウなどなど。とくに珍しいチョウではないのかもしれませんが、その場で名前や特徴がわかる、特徴や生態などについてプロフェッショナルに教えてもらえるというのは、子どもだけでなく大人にとっても、刺激的で面白いものです。

 

 標本作製開始!

たっぷり午前中いっぱい、虫を追いかけまわしたあと、センターに戻って各自持参した弁当を食べて、午後からは標本の作製です。といっても、虫という「ナマモノ」を扱う昆虫標本は、「捕って出し」みたいなかたちですぐに完成するわけではなく、腐ったりムシが湧いたりしないように、しっかりと乾燥させる必要があります(こういうふうに訳知り顔で私が書いている解説は、全て先生方の受け売りです)。なので本日は、虫を殺す→展翅、展足を行い形を整えるといった標本作製の最初の工程――そしてそれは美しい標本を作るためにもっとも重要な工程なのですが――を行います。

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慣れた手つきで標本作製に取りかかる先生

 

長男のカラスアゲハを使って、先生がお手本を見せてくれます。まず、チョウの胸の真ん中に、昆虫針と呼ばれる細い針を刺し、展翅板(てんしばん、と読みます)という、翅を見栄えのいい形に整えて拡げるための板(これは先生が発泡スチロールで作成し用意してくれていました)に、チョウを刺した昆虫針を固定します。そしてまち針を使って翅を、「綺麗な」「かっこいい」位置に微調整します。同じ虫でも、標本の出来映えというのは細かいところでずいぶん違いが出るということです。

 

「標本で表現する」ということ

「最近では小学生の科学展でも、標本を出す子が少なくなったんよ。というのは、評価する先生たちも標本を作ったことがないんよ。だから自由研究というと文章で表現するものと思ってるわけや。そやけど、標本で表現するのもありやと思う。文章にしないから劣ってるということはない」

とは、ある先生の弁。作ろうとしてみるとわかるのですが、いざ展翅、展足といっても、触覚や脚の向き、揃え方など、やっぱりそれぞれの生き物の特徴がわかっていないと、どういうふうに整えていいかわからないんですよね。蝶の翅にも丁度いい、格好いい角度があって、自分なりに「こうかな?」と思っていても、先生方にいわせると「もうちょっと高く」ということになります。

「標本作製におけるセオリー」ということでもあるのでしょうが、チョウならチョウで、その一匹、その一種類だけじゃなくて、色々なチョウを見て、触って、そして実際に標本を作って知っているから、「この角度が格好いい」となるのだと思います。

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ふるさと自然公園センターに展示されている標本より

 

続ける愉しみ

さすがに小二の長男には(私にも)、いきなりのチョウの展翅は難しく、その名の通り翅の裏が綺麗な銀白色に輝くウラギンシジミの翅も、鱗粉が取れ、いたるところ破れてしまいました。しかしながらなんとか展翅板に貼り付け、その後もトンボやバッタなどの展翅、展足を終え、満足そうな長男の顔を見ると、今回も来てよかったな、と思いました。この楽しみを、子どもたちにも自分も、ずっと味わって欲しいし味わいたいから、この自然観察教室がいつまでも続いて欲しいと思い、極々微力は承知で、ここにこうして記録することにしました。

そして次週は長男の特に好きな、植物がテーマ。「植物の採集と標本の作製」です*1。田辺市や近隣の方は、ぜひ一度参加してみて下さい。この教室で聞いた生き物を、後で図鑑で調べたりするとなお楽しいです。

また、自然観察教室の先生方が編集に携わった「田辺市の自然観察ガイドブック」もふるさと自然公園センターで販売されています(250円!)。下記サイトでpdf版も無料でダウンロードできます。自然や生きものたちへの愛のあふれた楽しくてためになるガイドブックだと思います。私も長男と2冊買って、愛読しています。60ページほどのブックレットのなかに、沢山のたくさんの動植物の名前が出てきて、これを味わい尽くせるようになるにはまだまだだな、でもそれができたら本当に愉しいだろうな、と思います。

 

ふるさと自然公園センター|田辺市

ふるさと自然公園センター 自然観察教室のご案内|田辺市

田辺市の自然観察ガイドブック|田辺市

 

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田辺市の自然観察ガイドブック[2017年改訂版](田辺市発行)

 

*1:「植物の採集と標本の作製」は2017年7月22日、実施されました。こちらに、参加した様子をまとめてみました